カート
0

川村記念美術館とアメリア・アレナス ②

川村記念美術館を訪れることになったのは

とある本がきっかけでした。

 

 アメリア・アレナス著「なぜ、これがアートなの?」(淡交社)

 

元MoMAの職員だった著者が

 

川村記念美術館の所蔵作品などの美術解説をしています。

 

「なぜ、これがアートなの?」と子供に問いかけ

 

「あなたってどんな人?何を感じているの?」

 

と人々に深くて新鮮な世界をもたらしてきた著者の

 

「アートを語る」言葉の数々がとても素敵なのです。

 

この本を携えて美術館を巡れば、

 

立体的に多面的に絵画を理解することができます。

 

次第に自分の中の階段を一歩ずつ降りていく経験を

 

誰もが味わうのではないかと思います。

 

自分の視点、ひいては自分自身を知るきっかけをくれるそんな本です。

 

例えばこんな具合です。

 

アド・ラインハートの『抽象絵画』(1960-1966)

(ぜひ検索してみてください。ちょっとびっくりするかも)

 

「たいていの人たちは、美術館の壁にかかっているアド・ラインハートの『抽象絵画』と題された作品の前を、ただの「黒い、四角いカンヴァス」だと思って通りすぎていく。(中略)アートが、もし通常の世界にある物事を再現することなしに、見る人の心に作用できるなら、その時にアートははじめて「言語」になる。(中略)ラインハートの絵は、ひと目で理解することを求めてはいない。それよりも、彼が制作中にこの絵を見つめつづけたのと同じくらいに、じっくりと時間をかけてみる意思のある鑑賞者にだけ、何かメッセージを送っていることをこの作品は暗示している。また彼は、単に作品を見るのではなく、熟考することをうながしている。それは世界に存在するすべての具体的な記憶を捨て去り、純粋に精神的な状態に自身を置くことではじめて可能になる行為だ。(後略)」(p.35)
 

 

 

これを読んだら

 

アド・ラインハートの『抽象絵画』の前で

 

 じっくりと時間を費やさずにはいられなくなりますよね。

 

 他にも、

 


フランク・ステラの『トムリンソン・コート・パーク』(1959年)

 (こちらも検索してみてください。検索する前に絵画を想像してから…)

 

 「(前略)一方、ステラのミニマルな絵画は、具体的な何かを連想することをはっきりと拒否した作品なのに、「トムリンソン・コート・パーク」という、ニューヨークのブルックリン区にある地名をそのままタイトルにしている。(中略)ステラは作品のなかから、詩的な脇道にそれる可能性を持つ要素をすべて排除し、もっとも現実的な視覚体験そのものを鑑賞者に実感させることを目的として作品を描いた。「あなたのみているものが、あなたの見ているものだ」とステラ自身が語っているように。」

 

ステラの企みを知り、思わず自分を客観視しました。

 
こんな風にちょっとした言葉のヒントがあれば


真っ黒に塗りつぶされた一枚の絵や


奇妙な幾何学模様の描かれた面が


急に作家の想いの詰まった
尊い作品として見えてくる。

アメリアのマジカルな言葉で
途端に脳内が活性化されていくのを感じました。

このようなアートの言葉の積み重ねで


多面的なモノの見方を
習得できそうな気すらしてきます。

 

この本にはアメリアの言葉だけが詰まっていますが、

 

きっと彼女はこう言ってる気がします。

 

 

「あなたはどう感じているの?」と。

 

 

特にとっつきにくい現代アートも丁寧に紐解くと、


 
実は私たちに密接に関わる、
感覚や概念が作品内に眠っているのですね。

 

 アートって

 

人智を超えた崇高なものであって欲しいと期待するものだけど、

 

実は皆の心や体の中に

 

すでにあるものなのだとつくづく感じます。

 

 

未知で壮大なアートの海上にそっと針糸を垂らす

 

 

「言葉」は釣り竿のような役目を果たしているのだと

 

尊い言葉の存在をこの本は教えてくれました。

 

 

 最後にアメリアが吉原治良の『作品』(1962年)

 

と日本の「書」について著した

 

このくだりがとても好きだったのでご紹介します。

 

アメリア・アレナスの言葉を日本語訳された

 

福のり子さんの技も

 

素晴らしいなと感動してます。

 

「書くという行為は、まさしく書家の意思と、それにあらがう素材との間の緊張感によって、文明と自然との微妙な均衡を保つ小宇宙を形成するのだ。こうした「静寂な」戦いの中に、意味が生まれる。そして筆から墨が滴り落ち、筆跡までもがしみそのものになってしまう恐れがあるからこそ、書の持つ意味はさらに深さを増すのである。」(p.62)
 

 

私がご紹介した一部だけでは到底伝えきれない

 

アメリアの秀逸な言葉の数々。

 

時代背景や現代アートの歴史的系譜も

 

盛り込んだ素晴らしい本

 

アメリア・アレナス著「なぜ、これがアートなの?」(淡交社)

 

ぜひお手に取って読んでみてください。

 

そして佐倉市の川村記念美術館にお出かけください。

 

本を持って再び美術館に行きたくなりました。